

湖の写真を撮りながら歩いていくと、次第にアブシンベルの小神殿と大神殿が見えてくる、この神殿はカルナック神殿のような付属建造物は無く、単体で存在しているが、真っ青な空と白い雲のすじを背景に建つ姿には背筋をゾクっとさせるものがある。旅行に出る数日前にTBSの「世界遺産」で放送されたものが、今目の前にあり、私の家の小さなテレビでは感じられなかった威圧感があり、ガイドのオラさんの説明を聞き流しながら、ただひたすらシャッターをきっていた。このアブシンベル神殿の移築から、世界遺産活動が始まり、私の97年の旅行計画の殆どが各地の世界遺産をめぐるものである、今世界遺産の発祥の地と言ってもいいこの地に立っている私がどれだけ興奮していたかた分かっていただるでしょうか。
<写真 アブシンベル大神殿>


我々のアブシンベルの観光は大神殿、小神殿、大神殿内部、大神殿の裏口(つまり駐車場)という順路で行われた。冷静な目でこの神殿を評すると、小神殿は水平に切断して移築したため、移築の再の切断跡が残っているが、大神殿は垂直に切断して移築したために、切断跡は殆ど分からない、神殿内部の壁画や彫刻は美しいが自然光が少ないので写真の撮影は難しい。それから、アブシンベル大神殿の裏側の内部がコンクリートドームで出来ているのには、驚きとともに、ここまでして移築した人々の素晴らしさを感じた。
個人的に興奮してしまったアブシンベル神殿の見学も終わり、アブシンベルの空港に戻ると、飛行機が遅れており、空港の職員も何時に飛行機が着くのか分からない状況となっていた、観光のハイシーズンにはよくこんなことがあるらしい。
出発の気配の無い日陰のロビーには多くの観光客が暇そうに、椅子にもたれて休んでいる。そんな時、僕は一人、西日の差す玄関の階段に腰を降ろし、空港の入り口の花壇を修理しているエジプシャンや機銃を抱えた空港警備員を眺めていた。
<写真左 アブシンベル小神殿、写真右 大神殿の内部>
花壇を直す職人は、一人はただ無心にコンクリートを練り、一人は定規も何も使わずにハンマーのようなのみで白い石をレンガのように削り、朽ち果てた花壇の外壁にコンクリートで貼っていく、しかしこれが結構奇麗な花壇になっていくから不思議で感動すら憶えるが、これがあのピラミッドや多くの壮大な神殿を作りあげた人々の末裔かと考えると複雑な気もする。一方、空港警備員も、僕の近くに腰を降ろし、だらけた格好でタバコをふかしているが、車が近づいてくると立ち上がり、それが一般の車だと、いかにも「ちぇっ。」というような顔をして、再び階段にしゃがみ込む、しかしこれが軍関係者の車だと、直立不動で構え、車から降りたお偉いさんが前を通る時には敬礼して足をならす、そんな時はお偉いさんが見えなくなっても少しの間直立姿勢を崩さず、腰を降ろす時は俺の方を見て苦笑しながら、一言言う、「あいつお偉いさんだから、しゃあねえな。」なんて言っているような感じだった。
これまであったエジプシャンは(商人が多かったのだが)、男性は皆がたいがでかく、不気味な表情を持っていて、狡賢く、そのくせ手際は悪い。女性は大半がマフラーを頭に巻いていて表情がまったく分からない、子供も陽気さがなく、妙に大人で、バクシーシの子たちはこまっしゃくれているので好きになれずにいた。エジプトの最終日のフリーの時間も、街歩きを辞めて、ホテルの部屋で休暇にしようかななんて思っていた位だったが、このアブシンベルで生まれた待機の時間に見たエジプト人で、少しエジプトが好きになった。
<写真 アブシンベル空港の午後>
結局、アブシンベルから戻る便は2時間近くも遅れた。飛行機がもうすぐ到着のアナウンスがあり、我々がロビーから出て滑走路側にでると、行きに乗った小さな飛行機が到着する、この飛行機から降りて来るのは殆どが日本人、ここは久米島かなんかなのかと勘違いしてしまいそうな光景である、彼らはこれから神殿を見学して今日中にカイロに戻るらしい、とにかく日本人観光客(私もその一員なのだが)はどこにでもいて驚かされる。
アスワンに戻ったのは6時、すでに日は落ち暗闇が拡がっていた、このためアスワンに戻ってからのフルーカ遊びのOPが中止になったのは残念だった。しかし夕食の後のスーク(市場)での買い物はフルーカ遊び中止を補うほど楽しいものだった。ホテルから馬車に分乗してスークに向かい、色とりどりの香辛料を眺めて価格交渉したり、「私はヤクザ、悪い人です。」とか、「バザールでござる。」などと誰が教えたのか不思議な日本語を使う商人たちと話し、とうとうガラベーヤ(民族衣装)を$40で買わされた、多少ぼったくられた感はあったが、一度着せられて、自分でも気にいっていたのでまあ満足、そのガラベーヤを着たままスークを彷徨いていると、次第にガラベーヤをまっとった日本人が集まりお互いに写真を撮ったり、笑い話で盛り上がり、久しぶりに楽しい夜を過ごせ、次の日には笑い過ぎで腹筋がいたいおまけまでついてきた。
<写真 アスワンの市場にて>